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Q.古い抵当権を抹消する方法について教えてください。

ご相談内容は,

“相続により取得した不動産を売却しようと業者に相談に行ったところ,古い抵当権が設定されており,これを抹消しないと売却するのは難しいと言われました。
しかし,抵当権者に心当たりはありませんし,詳しい事情についても誰も分からず,関係する書類も残っていません。
このような抵当権を抹消する方法について教えてください。”

というものです。

 

ご相談のような抵当権のことを休眠担保権といいます。休眠担保権を抹消する方法は,担保権者と連絡が付くのかどうかといった事情により変わってきます。
では,具体的な方法について見ていきましょう。

 

【休眠担保権の抹消】
1 休眠担保権とは

休眠担保権とは,明治,大正,昭和の初めなどに設定された担保権(抵当権,根抵当権,質権等)で,長年放置された古い担保権のことをいいます。このような担保権が設定されていると,担保権を抹消するまで売却が困難ですし,金融機関から融資を受ける際にも支障が出てきます。そのため,不動産を相続等により取得した場合,このような休眠担保権が設定されていないか注意してください。

休眠担保権であっても,担保権者と連絡を取ることができるのであれば,担保権者に協力してもらって,通常の抹消登記手続のように共同申請による登記手続を取ることできますが,ご相談の事例のように担保権者がどこの誰なのか分からず担保権者に協力を求めることができないことが多いです。

担保権の抹消登記をする場合,当事者の一方のみの申請では登記をすることはできないのが原則です(不動産登記法60条)。共同申請を原則とするのは,実質的審査権を有しない登記官には,実体関係に合致しない虚偽の登記申請かどうか分からないため,登記権利者及び登記義務者の双方を関与させることにより,登記の真正を担保するためです。
しかしながら,ご相談の場合のように,担保権者と連絡が取れない場合,いつまでたっても抹消登記ができないことになってしまうため,例外的に単独の申請により抹消登記ができる方法が認められています。

 

2 単独の申請により抹消登記をする例外的方法

(1)完済したことを証明する書類を登記所に提供する方法
既に完済したことを証明する書類(借用証書,領収証等)が手元にあれば,これを提出して申請することにより担保権の抹消登記手続をすることができます。
しかし,このような書類が残っているケースはほとんどありません。多くの場合がご相談のように手元に関連資料がまったくなく,この方法では抹消できません。
 

(2)除権決定を取得する方法

公示催告の申立てをして除権決定を取得する裁判手続を経ることで担保権の抹消登記手続をする方法です。
しかし,除権決定を取得するには,被担保債権が消滅・不存在であることを証明する書類が必要となりますが,上記(1)の場合と同様,そのような書類は残っていないのがほとんどです。また,被担保債権が時効消滅しているケースでは簡単に利用できるのではないかとも思われるかもしれませんが,消滅時効の援用をしたことを証明するために意思表示の公示送達をした上で,除権決定を取得する手続をする必要があり大変迂遠です。そのため,除権決定を取得する方法により抹消登記手続をすることはほとんどありません。
なお,意思表示の公示送達についてもっとお知りになりたい方は,以下の裁判所のウェブページを参考にしてください。

裁判所HP
http://www.courts.go.jp/tokyo-s/saiban/l3/Vcms3_00000347.html

 

(3)供託する方法
元金,利息,損害金を法務局に供託し,供託したことを証明する書類(供託書正本)を提出して申請することにより担保権の抹消登記手続をする方法です。
ただし,供託する金額が高額となる場合,この方法により抹消することは難しいでしょう。また,抵当権者等の登記義務者が行方不明であり,共同で抵当権等の登記の抹消を申請することができないことが要件の一つですが,担保権者が法人である場合,法人自体はとうの昔になくなっていたとしても,登記が残っていると行方不明(所在不明)には当たらないとされており,この方法により抹消することはできません。このような場合は,法人の清算人の行方を調査した上で裁判所に対し清算人の選任申立てをしたり,後記(4)の方法により担保権の抹消登記手続をすることになります。
なお,供託する方法については,以下の法務省のウェブページも参考にしてください。

法務省HP
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00055.html#29
 

(4)訴訟を提起する方法
訴訟を提起して,消滅時効等を理由として担保権者に対し抹消登記手続をせよとする判決を取得して,その判決に基づいて抹消登記手続をする方法です。
この方法によれば,上記(1)から(3)の方法によって担保権の抹消ができない場合でも抹消登記手続をすることができます。ただし,訴訟を提起することになりますから,3か月~6か月程度の時間を要することになります。

 

 

【休眠担保権の抹消のポイント(まとめ)】
①休眠担保権を放置すると,不動産の売却ができず,また金融機関から融資を受ける際にも支障が出ます!
②担保権の抹消登記をする場合は共同申請が原則ですが,例外的に単独申請の方法によって抹消登記手続をすることが認められています!
③単独の申請により抹消登記をする例外的方法の内,どの方法によるのがよいかはケースによって異なります!

 

以上が休眠担保権の抹消についての概要ですがいかがでしょうか。
相続の場面において,相続人やその関係者の誰もがよく分からない抵当権等が設定されておりびっくりするというケースは意外とあるようです。そのような場合は慌てず専門家に相談するようにしてください。