現代の高齢化社会において,認知症を発症するリスクは避けられないものになっています。
認知症などにより判断能力が低下した場合,所有する不動産を売却したり,有価証券を運用したりすることができなくなります。
そして,いくら子どもであっても,認知症の親の財産を処分したり,運用したりすることはできません。
このような場合に,本人の財産管理をする方法として,成年後見があります。
ただ,成年後見は,判断能力が低下した本人の保護を図り,権利を擁護するための制度であるため,本人の財産管理もそのような観点からなされます。
そのため,所有する財産を積極的に運用するということはできませんし,本人の意思も反映されません。
また,親族間に争いがある場合,裁判所は弁護士等の専門職を成年後見人に選任しますから,子どもが親の財産を管理することもできなくなります。
そこで,元気なうちから将来を見据えて,財産の管理について決めておこうというのが家族信託の認知症対策への活用です。
では,どのように家族信託を認知症対策に活用するのか見ていきましょう(なお,成年後見と家族信託の違いをもっとお知りになりたい場合は,下記ページをご参照ください)。
(Q.成年後見と家族信託の違いを教えてください。)
→ https://www.kobe-hidamari-law.com/news/qa/blog-senior/960/
●具体的スキーム例
【信託目的】
委託者の判断能力の低下に備えて,信頼のできる長男に財産の管理を頼みたいが,可能な限り,従前と変わらない生活を送りたい。
「委託者」
財産を受託者に託す人です。
今回のスキーム例だと父親です。
「受託者」
委託者から託された財産を管理・処分する人です。
今回のスキーム例だと長男です。
「受益者」
財産の管理・処分により利益を受ける人です。
今回のスキーム例だと父親です。
「信託目的」
何のために信託を活用するのか当該信託の目的です。
今回のスキーム例だと,
①委託者の判断能力の低下に備えて,長男に財産の管理を頼みたい
②可能な限り,従前と変わらない生活を送りたい
となります。
(信託目的の条項例)
(信託目的)
第○条 本信託の信託目的は,以下のとおりである。
信託された財産を受託者が管理または処分することにより
1 委託者の判断能力が低下した後も,委託者が安全かつ安心な生活を
送れるようにすること。
2 委託者が,可能な限り,従前と変わらぬ生活を続けて,快適な生活
を送ることができるようにすること。
「信託財産」
信託に活用とする財産です。
今回のスキーム例だと
①収益不動産
②預金
となります。
(信託財産の条項例)
(信託財産-預金)
第○条 委託者は,信託契約締結後,遅滞なく,信託財産目記載○の預金を
払戻し,当該払戻金を受託者に引き渡す。
2 受託者は,前項の払戻金を第○条の区分に応じ分別管理する。
「信託監督人」
受益者に代わって受託者を監督し,受益者の権利を保護する役割を担う人です。
今回のスキーム例だと弁護士です。
(信託監督人の条項例)
(信託監督人)
第○条 本信託の信託監督人として,以下の者を指定する。
住 所 神戸市○区○○
職 業 弁護士
氏 名 ○○○○
生年月日 昭和○年○月○日
(信託監督人の辞任)
第○条 信託監督人は,受益者及び受託者の同意を得て辞任することができ
る。
(信託監督人の報酬)
第○条 信託監督人の報酬は,以下のとおりとする。
○○○○
家族信託は,柔軟にその内容を決定することができるという点に特徴があります。
例えば,今回のスキーム例で言うと,委託者(父親)が亡くなった場合,委託者(父親)の受益権を母親に相続させることを決定しておくこともできます。
弁護士は,依頼者の要望に応じて家族信託を設計していきます。
そのため,家族信託の相談をする際には,どういうことを実現したいのか,どのように所有する財産を管理・処分していきたいのか等を率直に弁護士に伝えるようにしてください。
家族信託について,さらに詳しくお知りになりたい場合は,下記ページをご参照ください。
(家族信託)
→ https://www.kobe-hidamari-law.com/consult/senior/892/