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Q.交通事故による損害賠償請求権の消滅時効について教えてください。

交通事故による損害賠償請求権は,長期間行使しないでいると,時効により消滅してしまいます。

交通事故による損害賠償請求権の消滅時効については,民法724条が,
「不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは,時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも,同様とする。」
と定めており,時効期間は3年間になります。

そして,時効期間の起算点となる「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度に加害者及び損害を知った時を意味するとされており,損害を知ったというためには,損害を現実に認識しなければなりませんが(最三小判平14年1月29日・民集56巻1号218頁),その程度又は金額を知ることは必要ないとされています。

交通事故によって負傷した場合,受傷後治療を継続することから,被害者がいつの時点で損害を現実に認識したといえるのかが問題となります。
この点,最高裁判所平成16年12月24日第二小法廷判決(集民215号1109頁)は,当初自賠責保険において後遺障害非該当と認定された被害者が異議申立をしたところ,後遺障害等級第12級の認定を受けたため症状固定日から3年以上経過した後に訴訟提起をした事案ですが,「被上告人(注:被害者)は,本件後遺障害につき,平成9年5月22日に症状固定という診断を受け,これに基づき後遺障害等級の事前認定を申請したというのであるから,被上告人は,遅くとも上記症状固定の診断を受けた時には,本件後遺障害の存在を現実に認識し,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害の発生を知ったものというべきである。自算会による等級認定は,自動車損害賠償責任保険の保険金額を算定することを目的とする損害の査定にすぎず,被害者の加害者に対する損害賠償請求権の行使を何ら制約するものではないから,上記事前認定の結果が非該当であり,その後の異議申立てによって等級認定がされたという事情は,上記の結論を左右するものではない。そうすると,被上告人の本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効は,遅くとも平成9年5月22日から進行すると解されるから,本件訴訟提起時には,上記損害賠償請求権について3年の消滅時効期間が経過していることが明らかである。」
と判示し,後遺障害の認定は消滅時効の進行には影響せず,後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効は遅くとも症状固定の診断を受けた時から進行するとしました。

交通事故による損害賠償請求権の消滅時効については,一応下記のとおりまとめることができますが,上記のとおり,判例は被害者がいつの時点で損害を現実に認識したといえるのかを問題にしており,具体的な事情の下で時効期間の起算点は変わり得ますから,まずは弁護士にご相談ください。

◎交通事故による損害賠償請求権の消滅時効

なお,加害者への損害賠償請求権の時効が近づいてきた場合には,以下のような時効中断事由があれば,時効が中断されます。(※一時的に停止するということではなく,いったんリセットされ,再度ゼロから時効期間がスタートします。)

  1. 請求
    訴訟提起,調停申立など,裁判上の請求をした場合,時効が中断します。
  2. 催告
    法的手続きをとらずに,裁判外で加害者または保険会社へ請求をすることを「催告」といいます。
    例えば,配達証明付き内容証明郵便で請求書を送ることなどです。
    但し,催告をしてから6ヶ月以内に裁判上の請求(訴訟提起,調停申立など)をしないと時効中断の効力が失われます。
  3. 債務の承認
    被害者に損害賠償請求権があることを,加害者が認める行為を「債務の承認」といいます。
    例えば,以下のものが債務の承認にあたります。
    ・加害者の任意保険会社からの治療費や休業損害などの支払い。(治療費などの支払日に時効が中断し,翌日から時効期間が新たに進行します。)
    ・加害者の任意保険会社から損害賠償額が記載された書面(示談案)を提示された場合(提示日に時効が中断し,翌日から時効期間が新たに進行します。)

ひき逃げなど加害者が不明な場合でも20年間が経過すればすべての損害賠償請求権が消滅します。これは実務上除斥期間とされており,時効のように中断や承認はありません。

なお,加害者に対する損害賠償請求権と自賠責に対する請求権は権利が別ですので,自賠責保険への被害者請求,自賠責保険への異議申立,自賠責保険への時効中断申請などは加害者に対する損害賠償請求権の時効中断事由にはあたりません。

以上のとおり,交通事故の損害賠償請求権については時効がありますので,注意が必要です。
治療が長引いているが時効にかからないか?など,ご心配のある方はいつでもご相談ください。